前の記事で大規模言語モデルが意味することを検証しましたが、このテクノロジーは、人工知能(AI)という幅広い視点から見ても一大転換点となるべきものです。ここからは、この新しいChatGPTの分野で注目すべき大きな4つのトレンドを見ていきましょう。
大規模言語モデルの基礎研究が汎用人工知能につながる可能性
大規模言語モデル(Large Language Model:LLM)は優れたモデルですが、まだまだ改善の余地があります。さしあたってその最大の問題は、情報がないときにでも、もっともらしい間違った回答を生成してしまうことです。その問題があるかぎり、信頼性が求められるアプリケーションにこのモデルをそのまま使うことは難しいでしょう。今のところ、GPTに知らない質問には答えさせないよう設計された学習プロセスはないため、問題の解決が待たれます。なお、GPTが回答にどの程度自信があるかを、回答とともに表示するプロンプトはすでに開発されています。
もちろん、これらのモデルの論理的思考能力もまだ未熟であり、より大きなモデルやより優れた技法の開発を期待したいところです。今後さらに大規模なモデルが現れるのは間違いないでしょうが、現在の大規模モデルと同じことができる小規模モデルも登場するでしょう。うまくいけば、言語モデルを使用するコストだけでなく、学習させるコストも削減されるはずです。
汎用人工知能(Artificial general intelligence:AGI)のコンセプトは、どんな認知課題についても人間同様に論理的思考ができる人工エージェントの実現です。AGIの実現はシンギュラリティーの到来かもしれません。人間が偉大なテクノロジーを手に入れるだけでなく、そのテクノロジー自体が新しいテクノロジーを人間よりも速く発明し始めるからです。
人間がいつその能力を手に入れるのかはわかりませんが、大規模言語モデルは、間違いなく、そこに至る過程の重要なマイルストーンになるでしょう。
大規模言語モデルAPIの商用化
OpenAI社が発表した大規模言語モデルは最近注目を集めていますが、今後、多くの企業が大規模言語モデルのAPIを公開すると思われます。Googleにはすでに5,400億パラメーターのPaLMモデルがあり、近い将来、そのAPIを発表すると予想されています。Hugging Faceにも、パブリックドメインで利用できるBloomモデルがあります。この記事を書いている現在でも、このサービスを提供するために数多くのスタートアップ企業が設立されようとしている、あるいはすでに設立されているはずです。
今後数年で多くの企業が大規模言語モデルを商品化すると考えて間違いないと思います。このテクノロジーは、さまざまな用途の各種製品に組み込まれるようになるでしょう。具体的には次のようなものです。
製品に搭載されるインテリジェンスと思考機能の向上:
たとえば、自動的に患者の病歴を識別し、その患者の病状に悪影響を及ぼす可能性のある薬剤に警告を発する電子カルテシステム
製品に関するコンテキスト内学習とサポートの改善:
たとえば、新製品のコーヒーマシンのUXを知りたいと思う人に、完璧なエスプレッソを淹れる方法について説明し、質問に答えてくれるAIシステム
プログラム可能な消費者向け製品:
たとえば、「GPSで私が家から1km以内の範囲に入ったら、既定の温度で暖房か冷房を入れて。カレンダーにジムの予定が入っていたら入れないで」と話すだけで冷暖房を自動設定してくれる温度調節パネル
大規模言語モデルで可能になる新たな製品
ChatGPTが圧倒的におもしろく、いい意味で予想を裏切ってくれるのが、大規模言語モデルを活用した新たな製品です。このモデルを活用すれば、これまで不可能でなくとも実現困難だった製品が可能になります。すでに多くの製品が市場に登場しています。たとえば次のようなものです。
1. チャットボット:カスタマーサービスやサポート、製品内ヘルプといったタスクを自動化できます。
2. 執筆の支援:理路整然としたブログ記事やマーケティングコピーの作成を支援するLLM搭載製品がすでに市販化されています。これらは完璧ではないにせよ、大幅な時間節約になります。
3. 調査の支援:パブリックドメインにある情報を使って新しいことを知ろうとする人にとって、ChatGPTは最適なツールになっています。遠くの国へ旅行する前に調べたい場合や病気について知りたい場合、ChatGPTは検索エンジンと同じように手助けしてくれます。そのうえ、ChatGPTは既存のテキストを検索するだけでなく、基本的な論理的思考によって情報を合成することもできます。
4. コード生成と支援:Codex(コード生成に最適化された別のGPTスタイルのLLM)を使って生産性が劇的に向上したと、多くの開発者が報告しています。
5. 要約ツール:多くのメールや文書を読んで特徴的な情報を表示する、便利な時間節約ツールです。特に、大急ぎで何百ページものカルテに眼を通して関連情報を見つけなければならない医師にとって助けとなるでしょう。ただし、このテクノロジーをこのような重要なタスクに使うにはまだ完全に安全とは言えませんが、将来は大きなインパクトを持つでしょう。
ChatGPTがデータと分析をどう変えるか
パブリッククラウドサービスで自然言語処理と機械学習による分析が提供されるという進化が起こり、データと分析の分野も大転換の時を迎えようとしています。次のような4つの大きなトレンドが予想されます。
1. 分析UXのコンシューマライゼーション:検索と対話型インターフェイスの進化によって、民間企業のデータに対する分析が容易になります。LLMによる進歩は、自然言語で示されたデータやビジネス上の質問に対する理解力を劇的に向上させ、分析アプリケーションの中でそれが利用できるようになるでしょう。インサイトの生成に要する時間と手間が削減され、ドラッグアンドドロップのUXは過去のものになります。検索とチャットが主流になるでしょう。また、分析アプリケーションはプラットフォームの再構築が避けられません。現場のビジネスユーザーがセルフサービス方式で対応できるまでにUXが進化するからです。
2. 分析のハイパーパーソナライズ:分析プラットフォームにAIが導入されると、データ探索やインサイトはユーザー個人にパーソナライズされていき、ユーザーは自分の職務や目的に合ったインサイトを得られるようになるでしょう。ChatGPTなどAIシステムを活用した対話型分析は、質問のコンテキストを理解し、それに応じたインサイトを提案できるようになるはずです。さらに、レコメンドや優先順位付けシステムが進化すれば、対話機能のように、LLMの能力を使ってコンテキスト内でユーザーを支援できるようになるでしょう。
3. 目に見えない分析プラットフォームの台頭:分析プラットフォームは、ますます目に見えないものとなるでしょう。ワークフローの中に組み込まれて、より多くのビジネスユーザーが利用できるようになります。もう、分析プラットフォームの中だけでインサイトを探すこともなくなります。また、LLMその他のAIサービスの進化は分析サービスの細分化につながり、視覚化、どこへでもドリルダウン機能による探索、機械学習による予測的・処方的分析、検索・対話型分析などのサービスに分化すると思われます。このような分析サービスでもユーザーに近い領域は、コラボレーションプラットフォームやビジネスアプリケーションの中で利用できるようになるでしょう。
4. 信頼性とバイアス防止:分析が手軽になりユビキタス化していく一方で、精度や信頼性にも同様の注目が集まります。特にデータの分析とユーザーによる利用の両面に関連して、利用される学習済みのモデルにバイアスがあってはなりません。
ThoughtSpotでは、すでにこうした変化に対応しています。データの民主化を通じ、より事実に基づいた世界を作り上げるというThoughtSpotの使命は、変わることはありません。しかし、誰もがアナリストの手を借りずにデータを使って質問し回答できることを目指すThoughtSpotのアプローチが、大規模言語モデルによって大きく進歩することは間違いありません。データモデリングの支援からデータコメント作成まで、分析アプリケーションの他にもさまざまなアプリケーションが揃っています。
おわりに
過去5年間のこの分野の急速なイノベーションには、誰もが目を見張る思いでしょう。
ThoughtSpotチームも、データと分析の分野でのAI活用に多くの期待を寄せています。実験と学習を繰り返し、お客様によりよいサービスを提供できるよう、全力で取り組んでいます。ぜひ、今後の最新情報にご期待ください。この分野に取り組まれている研究者や製品開発者、一般消費者の方々からもご意見をいただけると幸いです。