「Beyond Japan 2023」イベントレポート

「検索」から「対話」へ

生成AIとの融合で進化するThoughtSpot

ネット検索を行うように「販売金額」「日付」など、キーワードを入力するだけ。すると数十億行ものデータも高速で処理し、知りたい情報をグラフで表示してくれる。そこからクリック操作だけでドリルダウンを行って、さらに深い情報を見たり、AIを使って異常値検出や相関分析を行い、インサイトを得たりすることも可能──。AIを活用したアナリティクス企業であり、最も使いやすい分析プラットフォームによるファクトドリブンな世界の実現をミッションとして掲げるThoughtSpotは、2023年7月18日(火)に東京ミッドタウン八重洲カンファレンスで「Beyond Japan 2023」を開催した。

イベントの冒頭、挨拶を行った日本法人 カントリーマネージャーの有延 敬三は「これまでThoughtSpotが提供してきた価値を超えて、新しい価値を実現していく」とイベント名である「Beyond」に込めた思いを説明。その価値の源泉となりうるのが生成AI(Generative AI)との融合にあると示唆した。

ここでは、挨拶に続いて登壇したCDO(Chief Development Officer) Sumeet Aroraとアジアパシフィックおよび日本を統括するKuntal Vahaliaによる<基調講演>、ThoughtSpotとの連携、協業による価値を紹介した<テクノロジーパートナー講演>、そして、ユーザ企業が活用方法や成果を披露した<事例講演>の概要を紹介していく。

ThoughtSpot合同会社
カントリーマネージャー 
有延 敬三

■基調講演

連続する人間の思考を妨げない

日本語で話しかけるBI

「日本に来るのは3度目ですが、毎回、様々なことに気付きます」。ThoughtSpot のCDO(Chief Development Officer) Sumeet Aroraは、こう切り出した。

ThoughtSpot
Chief Development Officer
Sumeet Arora

例えば、世界に先駆けて高速鉄道を実現したイノベーション力。細かい点にまで配慮が行き届いたおもてなしの心。そして、多くの人が心に抱いている他人への尊敬。Aroraは、このような日本の社会の特徴に感銘を受けているという。

同時にAroraは、これらの特徴がThoughtSpotの特徴に似ているとも言う。「私たちは、検索するようにテキストを入力するだけでデータを可視化したり、クリック操作だけでAI分析したりできるようにすることでBIのイノベーションを実現しました。イノベーションの背景には、誰もがデータ活用を行える環境を実現したいという思いやりと尊敬があります」。

ThoughtSpotは、モダンデータスタックにおいて最も「価値」に近い「分析とアウトプット」に特化したビジネスを展開している。「多くのモダンデータスタックパートナーと共に起こしたイノベーションによって、私たちは右肩上がりの成長を続けています。その価値は『ThoughtSpot Analytics』、あるいは埋め込み型の『ThoughtSpot Everywhere』のどちらを利用しても享受できます」と同じく基調講演に登壇したThoughtSpotのシニアバイスプレジデント Kuntal Vahaliaは話す。

ThoughtSpot
SVP, Asia Pacific & Japan
Kuntal Vahalia

しかし、データスタックを取り巻く環境の変化は激しく、登場した時はイノベーティブでモダンという表現がふさわしくても、多くは時間と共にモダンでなくなっていく。この数カ月を振り返ると、既存の技術を過去のものに変えうる、無視できない大きな変化があった。LLM(大規模言語モデル)の急速な進化と普及だ。「モダンデータスタックを追求し続けることはThoughtSpotの創業からの変わらぬ思い。そこで進化するLLMとThoughtSpotのテクノロジーを融合させ『ThoughtSpot Sage』を開発しました」とAroraは言う。

具体的にThoughtSpot Sageは、日本語や英語などの自然言語で入力すれば、それに応じてシステムがデータを処理し、グラフ表示したり、分析結果を示したりする。つまり、ユーザが行う操作は検索ではなく「対話」。BIはより人間中心の設計に近づいたといえる。

「ジャケットの売れ行きが好調」「気温との相関関係を見てみよう」「それ以外に因子はないか」というように、データにまつわる人間の思考は連続して起こるものだ。データ分析を専門家に依頼し、結果を受け取るコンシェルジュ型のBIでは、こうした思考の連続に追随するのは難しかった。一方、ThoughtSpotは、検索によるセルフサービス型BIによって、そのような人の連続する思考をサポートしてきた。

ThoughtSpot Sageは、その特徴をさらに強化する。

「検索よりも、さらに人間的。ユーザは、あたかもシステムと対話をするように連続して質問を繰り出し、データから様々な価値を引き出すことができます」とVahaliaは言う。

誰もがデータ活用を行える環境を実現したい──。ThoughtSpotの強い思いは、LLMを実装したThoughtSpot Sageによって、さらに目指す姿に近づいたのである。

■テクノロジーパートナー講演

グーグル·クラウド·ジャパン

Google CloudとThoughtSpotでデータの民主化

従量課金で利用可能なデータウェアハウス「BigQuery」を中心とするGoogle Cloud Smart Analyticsソリューション。「同ソリューションは、Google Cloudが提供する『Looker』『Looker Studio』『Connected Sheets』だけでなく、BigQueryとサードパーティーツールであるThoughtSpotを組み合わせてデータ可視化や分析を行うことも可能」とグーグル·クラウド·ジャパンの今井 寿康氏は述べる。

使いやすさ、わかりやすさを重視する両者の親和性は高く、データの民主化、データドリブン経営の実現に大いに貢献してくれるはずだ。

グーグル·クラウド·ジャパン合同会社
ISV Partner Development Manager
今井 寿康 氏

Databricks

日本語や英語が最も重要な開発言語になる

統合、可視化、分析など、データ活用に必要な機能を統合的に提供する次世代データ分析プラットフォーム「Databricks」。「データとAIの民主化を目指す上で最も重要な開発言語は、PythonでもSQLでもなく日本語や英語である」とデータブリックス·ジャパンの竹下 俊一郎氏は言う。

同社はThoughtSpotとパートナーシップを結んでいるが、その協業の成果の1つが「ThoughtSpot for Databricks」である。この実現によりDelta Lakeを実装したDatabricksレイクハウスでThoughtSpotが利用できるようになっている。

データブリックス·ジャパン株式会社
シニア·パートナー·ソリューション·アーキテクト
竹下 俊一郎 氏

Snowflake

イノベーションテクノロジーパートナーオブザイヤーに選出

企業におけるデータサイロの課題を解決し、データ利活用を促進するSnowflakeデータクラウド。DWH以外にもデータの加工や共有など、包括的な機能がSaaSで提供される。

データ分析基盤へのSnowflake採用は加速しており、ThoughtSpotをはじめ、様々な分析ツールが接続されている。

「『検索』によるセルフサービス型BIというThoughtSpotが実現した新しいユーザーエクスペリエンスは、Snowflakeユーザーにも高く評価されている」とSnowflakeの野田 孝一氏は語る。実際、ThoughtSpotは「Snowflake Summit 2023」において、イノベーションテクノロジーパートナーオブザイヤーに選出されている。

Snowflake株式会社
シニアパートナーセールスエンジニア
野田 孝一 氏

ウイングアーク1st

データ活用はIT主導と現場主導のハイブリッド型へ

累計7200社以上に導入され、BI市場国内シェアNo.1を誇るのがデータ分析基盤「Dr.Sum」である。提供元であるウイングアーク1stの大澤 重雄氏は「企業のデータ活用基盤は、IT部門がデータや分析情報を提供する『IT主導』と、現場部門が自らデータを活用する『現場主導』の両方に対応できる『ハイブリッド型』に進化すべき」と主張する。

同社は、そのキーテクノロジーとし検索のような簡単さでデータの可視化や分析を行えるThoughtSpotを高く評価。両社間の協業を深化させている。

※出典:ITR「DBMS/BI市場2021」データ分析/レポーティング市場:ベンダー別売上金額推移およびシェア

ウイングアーク1st株式会社
執行役員 Data Empowerment事業部長
大澤 重雄 氏

■事例講演

京セラ

データ容量課金で全社への展開が容易な点を評価

アメーバ経営のベースとなる5~10名の小集団の時間当り採算をいかに改善するか。これまでにはない価値を持つ新たなサービスや製品をいかに創出するか。そのために京セラは、データ分析環境の強化に取り組んだ。

「しかし、多岐にわたる事業を展開する同社では、各事業部がそれぞれにデータを保有しており、それらを横断した分析を行うことが困難。また、データ量が膨大で処理に時間がかかるという課題があった」と京セラの平野 克幸氏は話す。 

そこで基幹システムからデータレイクに全社のデータを統合。さらに誰もが自由かつ高速にデータの可視化や分析を行えるThoughtSpotをBIに採用した。「検索という直感的な操作性、容易にドリルダウンしていけること、大量データの高速処理、そして、ユーザ課金ではなく、データ容量課金で全社への展開が容易な点を評価しました」(平野氏)。

すでに全社約2万5000人への展開を終え、所属組織に応じた情報が自動で表示されるライブボードも実現。データ利活用に向けて大きな一歩を踏み出している。

京セラ株式会社
経営管理本部 経営情報システム部 部長
平野 克幸 氏

ベルク

店舗にいながら売れ筋や異常値を即座に把握

埼玉·群馬を中心に地域密着型のスーパーマーケットチェーンを展開するベルク。同社は、発注業務の高度化のためにThoughtSpotを活用している。

同社の発注業務は、本社主導と店舗主導の2つに分けられる。SKU(ストック·キーピング·ユニット)の約7割は本社が主導。AIによる需要予測や自動発注など、データやデジタル技術駆使して、精度の向上と効率化を図っています。

「一方、店舗主導の発注は、現場では数値を簡単に見ることができないことから、売れ筋商品を正確に把握できない、突然、販売数が急増するような異常値の早期発見が難しい、改善に向けた適切な指導が困難という状況に陥っていました」とベルクの福岡 譲氏は話す。

この状況を打破したのがThoughtSpotだ。iPadを通じて、現場でも簡単に売れ筋や異常値が即座に把握できるようになり、現場主導の発注業務の改革につながっているという。

株式会社ベルク
執行役員 データコントロール室長
福岡 譲 氏

NECネッツエスアイ

普段の生活のようにビジネスでもデータを身近に

天気予報、電車の乗り換え、評判の高い飲食店探しなど、毎日の暮らしの中にはデータ活用が自然に存在している。ではなぜ、ビジネスにおいては、日常生活ほど、データ活用が身近になっていないのか。NECネッツエスアイのデータ活用は、このような疑問からスタートした。

「様々な原因が考えられますが、深刻なのはデータ分析を行える人が少なく、その人に仕事が集中し、データ活用のスピードが上がらないこと。そして、ツールが普段の生活で使っているアプリに比べると『イケてない』ことではないでしょうか」とNECネッツエスアイの鈴木 良太郎氏は指摘する。

そこで、同社はこれらの課題を解決するモダンデータスタックを構築。可視化·分析·通知の機能は、ThoughtSpotを選定した。これにより誰でも簡単にデータ活用が行えるようになり、経営会議のための資料作成の削減、予算会議の質が変化といった成果につながっている。

NECネッツエスアイ株式会社
ビジネスクリエーション本部 サービスデザイングループ マネージャー
鈴木 良太郎 氏

Tangerine

店舗で起こっていることをその場で可視化

お店で商品を見てECで購入する。ECで購入をし、商品はお店で受け取る。現在の生活者は、自分のスタイルに応じてオンラインとオフラインをうまく使い分けながら購買行動を行っている。多くの企業が、その購買行動を意識した店舗運営やマーケティングなどを行っている。

それを支援するのがTangerineの「Store360」である。

「位置情報などに応じたプッシュ通知、店内限定のクーポン配布、オンラインとオフラインを横断した商品紹介、顧客カルテなどの機能を提供します」とTangerineの平井 清人氏は話す。

同社は、Store360によるOMOコミュニケーションをさらに高度化するために、リアル店舗で起こっていることを可視化するための新サービス「STORE360 Insight」を開発。その分析機能をThoughtSpot Everywhereによって実現している。

Tangerine株式会社
代表取締役
平井 清人 氏