データの収益化とは:知っておくべき全てのこと

「データは新しい石油である」とか「新しい空気である」などと言われます。どのように表現されようとも、あらゆる業界でデータの収益化がますます重要になっていることは間違いないでしょう。 

先見性のある企業は、データアプリが収益源であると同時に、カスタマーロイヤルティを向上させる差別化されたサービスであることにも気づいています。実際、調査によると、企業の44%がアプリや製品に分析を埋め込むことで収益にプラスの効果があると回答し、43%が顧客のエンゲージメントや定着にプラスの効果が見込まれると回答しています。しかし、これらはデータの収益化の一面にしか過ぎません。

そもそもデータの収益化とは何なのでしょう。このブログでは、データ収益化の定義を明らかにし、倫理的配慮を検討し、主要な要素の理解を深め、実際の応用にも触れます。読み終えれば、データ資産がもつ真の経済的なポテンシャルを組織が理解すべき理由とその方法がわかります。

データの収益化とは

Barb Wixomはその著書『Data is Everyone’s Business(データはすべての人に関わること)』の中で、データの収益化とは「データ資産から金銭的なリターンを生みだすこと」だと説明しています。また、多数の業界にわたるデータの普遍的な価値を強調しています。さらにGartnerはこれを進めて、データの収益化を、数量化できる経済的利益を得るためにデータを活用するプロセスと定義しています。 

では、これを現実世界で考えてみましょう。データは毎日、次々と生み出されています。いくつか例を挙げると、通常は販売取引やマーケティング、受注処理や配送、出荷といった主要な事業の副産物としてです。このような現実世界のプロセスから生み出されるデータを集め、それを収益に与えるプラスの効果へと変換することによって、データを収益化するわけです。このプラスの効果は、収益の創出、費用の削減、あるいはリスクの低減として現れてきます。 

しかし、「データの収益化」は、その大きなポテンシャルにも関わらず、一部のステークホルダーの間で物議を醸しています。医療関連企業を例に考えてみましょう。こうした企業は、個人の医療データから利益を上げていると見られることを恐れて、「データの収益化」という表現を使いたがらない傾向があります。実際には、収益を上げるためではなく、リスクを減らすためにデータを使っていたとしてもです。 

そのため、私は「データの収益化」に代えて「価値の実現」という表現を使うこともあります。それぞれの状況に合わせて最適な表現を使えばよいのだと思います。 

データの収益化の主要な要素

データの収益化を効果的に行うために、組織は3つの主要な要素に注目する必要があります。 

  • データの質の向上

  • 価値のあるインサイトの特定

  • これらのインサイトのビジネスアクションへの変換 

データやインサイトの利用を社内で行うか社外で行うかに関わりなく、上に挙げた主要な概念を実行できるかどうかが、価値の実現とデータの収益化を成功させるカギとなります。  

データから得られる価値の実現:3つのモデル

1.インサイトの弾み車(フライホイール)

第1のモデルは、私が「インサイトの弾み車」と呼んでいるモデルです。上に挙げた3つの要素の実施のことです。要するに、質の確保、主要なビジネスに沿った価値あるインサイトの創出、目標の達成に向けてとるべきアクションの特定を行う中で、データを強化していくのです。目標は市場投入までの時間の短縮でも、顧客離れの抑制でも、時間どおりの完全な配送(OTIF)の改善などのサプライチェーンの最適化でもかまいません。 

「インサイトの弾み車」モデルは、組織内のバックオフィス部門やエンタープライズ部門の多くにとって基本となるモデルです。多くの企業が経営の効率化や意思決定の改善のために利用できるデフォルトモデルなのですが、データをインサイトへ、さらには業績へと結びつけるのは容易ではないと感じる企業が少なくありません。これは、主要な要素が十分に実行されていない証拠でもあります。

インサイトの弾み車をうまく回す方法を体得した一例が、Veriskの1部門であるXactWareです。XactWareのインサイトによって、各保険会社は保険金請求のサイクル時間を6か月から2週間に短縮できました。同社では、そのインサイトと専門知識を多数の顧客に拡大する必要がありました。 

今あるデータの中に、自社の経営効率の改善に向けて、特定し行動に結びつけられるようなインサイトはあるでしょうか。顧客が行動に結びつけられるようなインサイトは、どうでしょうか。そのようなインサイトがあるならば、それを弾み車として価値の実現を開始する準備はできています。

2.埋め込み分析

もう1つの方法が、埋め込み分析2.0です。ローコードのセルフサービスによる分析を、組織のオンラインポータルや顧客向け製品に直接統合できます。製品改善の促進や、社員・顧客・パートナーのポータルの強化、パーソナライズされたサービスの提供などにデータを活用することが、カスタマーロイヤルティの向上や競争力の強化につながります。さらに、顧客の定着率の向上(売り上げ増に効果的)、新規と既存のサービスのライセンス、経費の削減、経常的な収益源の創出によって、価値を実現するチャンスが広がります。

Cetera Financial Groupをはじめとする企業は、ThoughtSpot Embeddedを製品に埋め込むことにより、営業と業務の生産性を高めると同時にコストを削減しています。具体的には、AIを活用したポータルでファイナンシャルアドバイザーが分析を使えるようになったことから、Ceteraでは年間230万ドルを削減し、技術運用コストは100万ドル削減されると推定しています。 

3.商品化

最後に紹介する方法は、データそのものの販売です。多くの場合、「商品化」と呼ばれます。これは新しい概念ではありません。実際、企業は長年にわたり自社のデータを直接販売してきました。このモデルでは、データを提供する各企業がデータを処理し、製品としてパッケージ化し、価格設定と請求を行い、複数の流通経路を実装します。データ製品は、未加工データや洗練されたインサイト、あるいはデータマッシュアップサービスとして、パッケージ化されます。

また、Google Cloud、Snowflake、Databricksといった企業が提供している最新のクラウドデータ市場は、データ製品をパッケージ化する新しい方法を提案しています。この新しいモデルは、サブスクリプションサービスを提供し、ビットを転送することなくデータの共有ができ、関連の請求サービスも受けられます。 

たとえば、London Stock Exchange Group(LSEG)は、Snowflakeの金融サービスデータクラウドを活用しています。LSEGがプラットフォーム上で定量的分析(QA)を他の60のデータ製品とともに販売しているのは、データの収益化に対する商業的アプローチの好例と言えるでしょう。

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組織でデータを収益化すべきかどうか

基本的に、どの組織もデータの収益化を検討するべきです。ただし、価値の実現の内容は、インサイトの弾み車を回すことから製品やポータルに分析を埋め込むこと、データインサイトを直接販売することまでさまざまです。どのデータ収益化の戦略を選ぶかは、全体的な事業戦略によって大きく変わってきます。

プロフェッショナル向けのヒント:判断にあたっては、事業戦略からデジタル戦略、そしてデータ戦略まで考慮する必要があります。そうして初めて、収益化戦略の選択が可能になります。このアプローチを採ることにより、データ収益化の戦略を事業活動と調和させることができます。

データ収益化の戦略を策定するときには:

  • 収益化を企業全体の事業戦略、デジタル戦略、データ戦略とどう調和させるかを検討しましょう。

  • インサイトの弾み車を回す準備ができていますか。準備が整っていないなら、どの部分を充実させるべきでしょうか。

  • 対象にしたいのは誰ですか。社外の顧客、社内の従業員、パートナー、エージェント、それとも販売業者ですか。

  • データウェアハウスやデータレイクによって、ユーザーにインサイトが見えづらくなっていませんか。

  • 顧客離れを減らし製品の競争上の優位性を生み出すために、分析の埋め込みを検討しましょう。収益を生む運用を構築するために、少し時間を取りましょう。

  • ポテンシャルをモデル化するために、ビジネス価値のアセスメントや収益化計算ツールを使いましょう。

  • ユーザーエクスペリエンスのニーズを把握し、セルフサービスやパーソナライゼーション、スケーラビリティ、拡張性、さらにはウェブ、モバイル、対話型AIを通じたマルチモーダルアクセスの実現をめざしましょう。

複雑なデータの収益化の過程においては、顧客の信頼を失うことがないように、倫理やプライバシーの懸念事項を金銭的な利益と比較検討することが極めて重要になります。組織の価値観や顧客の期待に合わせてデータ収益化のモデルを慎重に選択することによって、データ資産の真のポテンシャルを引き出すことができ、デジタル時代におけるイノベーションの醸成や経済的利益の促進が可能になります。

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